時計技術の継承を目的に優れた技術をもつ時計師を中心に結成された歴史ある協会の“独立時計師アカデミー”。メンバーは世界で30人ほどだが、フィリップ・デュフォー氏や日本人では菊野昌宏氏や浅岡肇氏など名だたる時計師が在籍している。彼ら独立時計師が手がける時計の魅力をひと言では言い表すのは難しいが、あえて挙げるならば、“独創のウオッチメイキング”だろう。生産性を無視してハンドメイドにこだわった時計や奇想天外な機構をもった時計など、それぞれの時計哲学が色濃く反映された作品は、唯一無二の魅力を備えている。それゆえ、彼らの動向に注目する時計愛好家は非常に多い。
そんな同アカデミーではこれまで、新作発表の場としてバーゼルワールドに参加していたのだが、今回、初めて単独での新作展示会「マスターズ オブ オロロジー」がスイス・ジュネーブで行われることが発表された。ジュネーブは16世紀に時計製造が開始され、1602年には最初の時計職人組合が設立されるなど、スイスにおける時計製造の中心地。また1845年にPATEK & Cie(現在のパテック フィリップ)が設立された場所の近くで、周辺には1540年以来、“キャビノチェ”と呼ばれた時計師達が多く住んできたサン・ジェルベの古い歴史地区があるなど、時計製造の歴史を感じる場所での開催となる。
現在の状況を考えると現地に行くというのはなかなか難しいかもしれないが、珠玉のタイムピース発表を心待ちにしたい。
「マスターズ オブ オロロジー」■出展予定<会員> コンスタンチン・チャイキン、スヴェン・アンデルセン、ダヴィッド・カンドー、ルドヴィック・バウワー、ヴィアネイ・ハルター、ラウル・パジェス、ジョン・ミカエル・フロー、カリ・ヴティライネン、アーロン・ベクセイ、ステファン・クドケ、フェリックス・バウムガルトナー、ミキ・エレタ、アレッサンドロ・リゴット、ロバート・ブレイ、フローリアン・シュルンプ<会員候補> 牧原大造<2022年度志願者> セバスティアン・ビリエラ、アントン・スハノフ、シルヴァン・ピノー、マキアル・フルスマン※本イベントにおいて日本人会員の浅岡肇、菊野昌宏の参加予定はありません
場所:L’iceBergues Exhibition(Centre, Place des Bergues 3)日時:2022年3月30日~4月5日(現地時間)時間:14時から深夜入場料:無料(下記から事前予約が必要)Calendly – Académie Horlogère des Créateurs Indépendants
【問い合わせ先】独立時計師アカデミー(AHCI)committee@ahci.chwww.ahci.ch
【日本でもなじみがあるアカデミーメンバーとその代表作をチェック】
浅岡 肇(あさおか はじめ)
<Profile>1965年生まれ。東京藝術大学美術部デザイン科卒業後、プロダクトデザイナーとして活動。これと並行して、独学で腕時製造のノウハウを習得し、2005年より腕時計制作を開始。2009年に、日本初となる自社製のトゥールビヨンモデルを発表。その実力が高く評価され、15年に独立時計師アカデミー会員に迎えられる。
プロジェクトT氏の時計製造技術に加え、航空・宇宙産業に携わる由紀精密と工具メーカーOSGによる加工技術を採用し、日本の技術力を証明するため世に送り出したトゥールビヨンモデル(2014年発表)。
ステファン・クドケ
<Profile>1978年、ドイツ・フランクフルト生まれ。グラスヒュッテの時計学校を卒業後、グラスヒュッテ・オリジナル、ブレゲなどで時計師としてのスキルを磨く。2007年に独立し、自身の時計メーカー“クドケ”を創業。18年には念願の自社ムーヴメントを完成。これが高く評価され、21年に独立時計師アカデミー会員に認定。
クドケ219世紀の懐中時計用ムーヴメントをモチーフにした自社製のKaliber 1にデイナイト表示を加えたムーヴメントを搭載するクドケ2。月と太陽によって表現されるデイナイト表示は、手彫りによるものだ。
コンスタンチン・チャイキン
<Profile>1975年、ロシア・サンクトペテルブルグ生まれ。約17年前に最初のトゥールビヨン時計を製作。その後、2010年に独立時計師アカデミーの一員となる。時計師であると同時に優れた発明家でもあり、今日までに彼が取得した時計製造の分野における特許は、実に70以上にも及ぶ。
ジョーカー時分表示を“目”に、ムーンフェイズ表示を“舌”に見立て、時刻が進むことで様々な表情を作り出すユニークウオッチとして大きな話題を集めたジョーカー
文◎堀内大輔(編集部)