■新型ステップワゴンのデザインの秘密をパッケージデザイナーの市川聡子さんに直撃
■先代でネックとなっていたポイントを大幅に改善
■使い勝手や走りも一新されているので期待して欲しい1台だ
今春発売予定の新型6代目ホンダ・ステップワゴン。広さや乗降性、シートアレンジ、荷物の積載性など、室内空間の重要性が極めて高い、このミッドサイズFF背高ミニバンのパッケージングを、どのように構築したのか。本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 テクニカルデザインスタジオ パッケージデザイナーの市川聡子さんに聞いた。
──新型ステップワゴンでも5ナンバーサイズは維持されているのでしょうか? ……まだ詳しくは言えないと思いますが。
市川 そう……かもしれませんね(笑)。ステップワゴンは現行モデルの「スパーダ」も全幅は5ナンバーサイズを維持していますが、他社さんのエアロモデルはとっくの昔に5ナンバーサイズを超えていて、そちらが主流になっています。
──新型になって大きく変わったのはAピラーとのことですが……。
市川 そうですね、根元を後ろに引き、角度も立てたことで視界を改善しました。ほかにも大きな骨格では、ガラスセットを外に出しているんですね。その代わりに上側を絞っています。現行モデルは全体が反り返っているような、大きく見えるものの不安定なプロポーションだったので、今回は「安心」というコンセプトに沿って、樽形の断面形状になるよう工夫しています。ですので座っていただくとワイドに見えて、また、Aピラーを引くことでフロントウインドウもワイドに見えますので、それもひとつ上のクラスに感じさせる要素ですね。
N-BOXもそうですが、幅の制限があるクルマは、どうしてもすべてが縦長にできてしまいがちです。今回はそうしたことがないような、今までより1.5倍広い感じがする骨格になっています。
──現行モデルはサイドウインドウが直立に近かったですね。
市川 はい、ハイエースなみに立っていたので、新型は面に張りを与えることで、安心感を持たせています。
──そうすることで空力的に有利に働く、ということはありますか? こういう背高ミニバンは横風に煽られやすい傾向にありますが……。
市川 私は空力の専門ではありませんが……ルーフレールやフロントウインドウガーニッシュなどの形状を最後の最後まで煮詰めていました。
──その分、室内の幅は……。
市川 現行モデルより広がっています。奥行きも、Aピラーを立てることで、頂点がだいぶ前に行きましたので、3列目に座るとルーフがすごく長く感じるんですね。それも広さに寄与していますね。ですからサンバイザーも非常に大きくなっています(笑)。最近のミニバンはワンモーションフォルムが多く、Aピラーの頂点が乗員に近かったんですね。
──はい、現行モデルも、運転席のヒップポイントを上げると、圧迫感が強かったですね。
市川 それが新型では全然感じられない、広く感じると思います。それが2・3列目にも効いて、室内が広く感じられるようになっていますね。
──実際の数値以上に広く感じる、と……。
市川 感じると思います。乗ってもらった人に「広い」と言ってもらえる理由を、私たちが逆に探ったくらいで(笑)。
──新型ではベルトラインを上げたとのことですが、それによって視界の要件は厳しくならなかったのでしょうか?
市川 現行モデルでは助手席側Aピラーの根元にサイドビューサポートミラーを設定していますが、新型ではそれは助手席側ドアミラーの下に移しています。それ以外には特に視界の要件はありませんので、上下のラインをきれいに通すことで、定規のように使え、運転しやすいよう配慮しています。
また、現行モデルや他社製品で高速道路などを走った際、サイドの視界が広すぎるので、合流の時に怖いんですよ、トラックなどが真横に来ると。ではどの辺りがちょうどいいか、いろんなクルマを乗り比べして、新型ステップワゴンのベルトラインが、一番安心感があり見えなくもない、丁度良い高さということで決めました。N-BOXも丁度良い高さなんですよ。ちょうど新型ステップワゴンの開発を進めている頃にあおり運転が社会問題になり、怖い事故も多かったので、こういう安心感は大事だよねと。
──ベルトラインが低いほうが、真横や斜め後方を直接見やすいので、とくに車庫入れの際は楽だと感じますが……。
市川 アラウンドビューモニターなどのアシスト機能も画像がクリアになっていますので、その代わり車体側では絶対的な安心感を高める方に振っていますね。
──実際に運転席に座ってみると、フード左右のプレスラインがちゃんと見えますね。
市川 現行モデルはまったく見えなかったので……。新型は稜線がどれも四角く水平・垂直なので、車庫入れで斜めになりにくいよう、定規として使えるようにしています。
──インパネの天面もスッキリしていますね。
市川 そうですね、これに慣れると他のクルマに乗れなくなります(笑)。
──インパネシフトは、ストレートゲート式のものもあるんですね。
市川 はい、あります。e:HEVはスイッチ式になります。
──ガソリン車にはストレートゲート式のシフトレバーが装着されるんですね。これも最近社会問題になっていますが、誤操作による追突事故を防ぐという観点では、こちらのほうが良いと感じています。フィットではe:HEVにもストレートゲート式のシフトレバーが採用されており、これは見識だと思いましたが……。ミニバンではインパネ中央もできるだけコンパクトにしたいでしょうから、スイッチ式にしたいのもわかるのですが。
市川 そうなんですよね……。
──サンバイザーは確かにとても大きいですね。とくに冬の季節は、直射日光が正面から当たりやすいので……。
市川 はい、このくらいのサイズがないと厳しいですね。また、フロントドア内側前端に三角のガーニッシュがあったのですが、Aピラーを折り曲げることで、新型では廃止しています。部品がひとつない分、スッキリしていますね。こんなに折り曲げたピラー、なかなかないと思いますが。
──2列目シートはだいぶ多機能になって、オデッセイに近くなったような印象を受けます。
市川 そうですね、この中寄せシートはオデッセイにも採用していますが、オデッセイはスライドレバーがふたつあったのに対し、新型ステップワゴンは人つにしていますね。「スパーダ」にはオットマンも装着して、より快適に使ってもらえるようにしています。
──「エアー」にも設定してほしいと思いますが……。
市川 ですよね(苦笑)。
──3列目シートは格納が優先になるとは思いますが……。
市川 ですが、今回は座面の厚みを20mmほど増して、ヒップポイントも上げて、座り心地を良くしています。あと、デザイン的な目の錯覚ですが、肩の部分が収納形状の関係で削がれているのを、シート表皮とトリム上部の色を合わせることで、大きく見えるよう工夫しています。また、座面の厚みを20mm上げたのは、薄く見える最大の原因であるということも理由にあります。その分、テールゲートの開口部地上高を上げて、3列目シート格納時と高さを合わせることで、他車より高いということもなく、自転車をラクラク入れられるにしました。
──3列目は、シートの絶対的なサイズは小さいですが、ヘッドクリアランスやニークリアランスは……。
市川 充分に取ってあります。3列目はリヤエンターテインメントシステムが一番見やすいポジションですから。さらに3列目は、酔いにくい視界にこだわって設計しています。1・2列目のヘッドレストを薄型化したのですが、ヘッドレストが大きいとそれを避けて前を見てしまうんですね。そうすると軸がぶれて酔いやすくなるので、真っ直ぐ座っていられるような視界を維持すると、酔いにくいですね。
──サイドのラインもスッキリして、視覚的ノイズも減ったように感じます。
市川 それもあって、酔いにくくなっていますね。今ホンダのなかで、酔いにくさを科学的に立証しようと研究していて、特許も出願しています。
──ヘッドレストの小型化で、むち打ち症対策の要件は厳しくなりませんでしたか?
市川 要件にミートするようには作っていますね。
──下側を伸ばしている……?
市川 そうですね。使う時は上へ引き出していただいて……。でも2列目は、普段はチャイルドシートが装着されていることが多いと思いますので、その時は下に入れてもらって、3列目に座っていただくのがいいですね。
──オデッセイの国内販売が終了するので、新型ステップワゴンがミニバンのフラッグシップになるわけですよね。
市川 はい、オデッセイの賢い所を採り入れています。
──新型ステップワゴンは子育て層をカバーするだけではなく、オデッセイが担っていたポジションも担う作りになっていますね。
市川 そういうトリム構成も用意しています。
──あとはこれで、走りがどれほど進化しているか、ですが……。
市川 満を持して発売しますので、期待していて下さい。
──ありがとうございました!