ティソCEOのシルヴァン・ドラが語る、T-タッチやシースター、NBA提携などにかける情熱

huaweiwearabless 24/11/2022 512

ハミルトンの舵取りを経て、2020年にティソのCEOに就任したシルヴァン・ドラ。毎年400万本以上を輸出しているというティソを、彼はこれからいかに展開していくのだろうか? 自身のゴール、アメリカ市場、そしてNBAオフィシャルタイムキーパーなどをキーワードに据え、インタビューを実施した。

ティソ CEOのシルヴァン・ドラ。1972年、フランス生まれ。2004年にスウォッチのハイテク&アクセス部門責任者として時計業界に参画。2005年、ハミルトン本社のインターナショナルセールス部門トップに就任。2011年、ハミルトンのCEOに着任。2020年7月1日より現職。Originally published on watchtime.comText by Roger Ruegger2021年11月30日掲載記事

シルヴァン・ドラへのインタビュー

WatchTime:ティソにとって2020年はどのような年でしたか?シルヴァン・ドラ:目指す方向に進んでいると思える年でした。スイス時計で300から1000スイスフランの価格帯に位置する腕時計は多くない状況のため、特に問題とする点は見当たりません。世界には、何の制約もないオープンな市場が5つあります。この5つの市場で私たちは成長しています。その他の市場においてはもちろんチャレンジはありますが、オンラインの成長には目を見張るものがあります。

WatchTime:アメリカ市場はどうですか?シルヴァン・ドラ:アメリカ市場では素晴らしい成果を上げています。過去5年にわたって私たちはNBAに対して大きな投資をしてきました。それが結実し、成長してきています。アメリカ市場については前向きですが、カリブ諸島が未着手となっています。

WatchTime:ナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)とのパートナーシップが功を奏したということですね?シルヴァン・ドラ:今は「はい」と答えられるでしょう。もし1週間前に同じ質問を受けていたら、確信を持てるデータがなかったのですが。私たちはブランド認知度やブランド知識の向上などの調査結果を受け取りました。そのデータを見ると、メディアとNBAへの投資が相乗効果となって成長につながったことがはっきりと分かります。この調査は2年に1度行っていますが、この24カ月間で本当に上昇しています。

WatchTime:次のステップは何ですか?シルヴァン・ドラ:NBAのオフィシャルタイムキーパーとしての投資を続け、間もなくティソのアンバサダーとして、新たに2名のNBAトッププレイヤーと契約を結ぶ予定です。同時にEコマースの発展、好調な百貨店との素晴らしい協調体制のさらなる開拓、小売店のパートナーがオンラインストアを強化できるための支援を継続します。まずはとにかくNBAに焦点を当てていきたいと思います。

ティソは2015年にNBAのオフィシャルタイムキーパーとなった。

WatchTime:ブランドにとって最大のチャンスはどこにあると思いますか?シルヴァン・ドラ:この答えにはいくつかの見方があると思います。まずレディスコレクションにチャンスがあります。現在、レディスコレクションは全体の売り上げの27%を占めており、今後は特に「ベリッシマ」コレクションでさらに売り上げを伸ばすことができると考えています。そして市場においては、日本のように大きな成長を見込める国があります。現状、ティソは日本で過小評価されていると見ており、私たちは2021年に大規模な予算投下を行っています。日本における飛躍を目指しているのです。アメリカ市場では急速に成長を遂げていますが、まだ始まったばかりです。今回NBAへ行った予算投下によって、私たちは非常に大きな成長の可能性を手にしました。売り上げを倍にすることも容易いでしょう。韓国市場においても大きな成長の可能性があると思います。そしてナンバーワン市場の中国ですが、ここではこの数カ月で非常に大きな成長が見られています。特に小売店とEコマースのセールスにおいてこれが顕著です。私たちは小売店のパートナーにさまざまなツールを提供し、サポートを行っています。その他に大きな可能性を秘めているのがドイツ市場です。2020年11月、12月はドイツで過去最高の売り上げを記録しました。

ティソCEOのシルヴァン・ドラが語る、T-タッチやシースター、NBA提携などにかける情熱

WatchTime:2020年に現職に就任されて、それまでの役割と大きく異なると感じた点は何でしたか?シルヴァン・ドラ:そうですね、やはり産業規模の大きさでしょうか。それ以前の4年近くT-タッチ コネクト ソーラー(スイス製の独自OS「Sw-ALPS(スワルプス)」を搭載したタッチパネル式スマートフォン連動ウォッチ)のプロジェクトチームと既に関わっていたので、その点でちょっと特殊ともいえます。つまり就任時が文字通りのスタートではなく、ティソとの関わりはさらに4年前から始まっていたのです。その後CEOとして着任した際にはマティルド(マティルド・エンズ、国際広報スペシャリスト)、ローリー(ローリー・サンダース、製品担当副社長)、物流チームやCFOを既に知っていたので、やりやすかったですね。

WatchTime:シースターの重要性をどう考えますか?シルヴァン・ドラ:そうですね、シースターはセールスの面でとても重要な役割を担いつつあります。これはティソの4つ目のラインです。現在のバージョンのシースターは4年前にスタートしたばかりですので、第4のラインとしてのポジションを確立できたのは大きな成果だと思っています。すでに現在のセールスの約7%を占めています。また私にとっては、ティソの実力を示すことができるという意味でも重要です。1000スイスフランで、ISO 6425に準拠し、セラミックスベゼルを備え、仕上げや文字盤の品質にもこだわるという、ブランドの強みを示しているからです。T-タッチ コネクト ソーラーやシースターではティソのイノベーションを見せることができます。また今の私のお気に入りであるPRX オートマティックのように、ヒストリカルなピースに関わる企画も大好きです。「伝統に根ざし、伝統を打ち破るイノベーター」は、何年も前からブランドのDNAに組み込まれています。

「ティソ シースター 2000 プロフェッショナル」。自動巻き(Cal.パワーマティック80/ETA C07.111ベース)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ最長80時間。SSケース(直径46mm、厚さ16.25mm)。60気圧防水。12万8700円(税込み)。

WatchTime:時計コレクターはどのような役割を果たしているのでしょうか?シルヴァン・ドラ:コレクターとの関わりは歴史につながるものであり、ティソにとって次のレベルへと進むために非常に重要です。そこには夢のような到達点が待ち受けており、そのための投資も行うでしょう。同じく豊かな歴史を持つブランドで働いた経験から、コレクターの存在がいかに重要かを知っています。情熱を持った彼らの心の琴線に触れることができれば、進んでいる方向が正しいかどうかが分かります。彼らの影響力は大きく、時計に興味がない顧客以上にブランドを高みに連れて行ってくれます。そのためコレクターがらみの大きなプロジェクトが動いているところです。お話するにはまだ早いのですが、このプロジェクトは年末には公開される予定です。小さなミュージアムのようなものになる予定で、並行して世界を旅するようなキーコレクションの開発も行っています。これがコレクターとの関係を強化する動きのひとつです。ティソにはまだ知られていない歴史があります。時計作りの豊かな歴史に触れるには、非常に高価格帯のブランドを視野に入れなければならないと思っていらっしゃる方は多いのですが、その必要はありません。ティソ自身に信じられないほど豊かな歴史があり、それを前面に推し出したいと思っています。担当チームはこの10年間に素晴らしい成果を上げ、アーカイブを紐解いてきました。そのチームには4人以上の専任担当者がおり、「ミュージアム」を知り抜いています。現在もこのプロジェクトは継続しており、コレクターにそれまでの成果を見ていただけるところまで来ています。

WatchTime:時計業界でのキャリアを選んだ理由は何ですか?シルヴァン・ドラ:最初は時計とは全く関係ない技術系の仕事をしていました。日用品やソフトウェアの世界です。そんな時、ニコラス・G・ハイエックがマイクロソフトと共同で初めてのコネクテッドウォッチのプロジェクトを立ち上げるために、こうした業界から人材を探していたのです。2005年のことでした。私が入社したのは2004年で、史上初のコネクテッドウォッチのために、週末も昼夜を問わず働き続けた1年間は素晴らしいものでした。初めてと言いましたが、実際は2本目ですね。最初の1本はティソ ハイTモデルでしたから。当時私は似たプロダクトを持つスウォッチ側にいて、ティソの時計の方が1週間早く発売されたのです。そこからはまるで夢のような日々でした。その後ハミルトンに移り、その世界に慣れてしまうと、もう日用品やライフサイクルの短いプロダクトの世界には戻れなくなりました。

WatchTime:コネクテッドウォッチと機械式時計は同じブランドの中で共存できると思いますか?シルヴァン・ドラ:そう思います、例えばこのTタッチ コネクト ソーラーがうまくいっているように。ただそのためには多くの努力が必要でしょう。なぜなら私たちにとってコネクテッドウォッチを作るということは、時計を作ることだからです。それが何を意味するかというと、針が付いていて、充電の必要がないものを作るということになります。それが商品戦略のスタート地点でした。どのように作るかを考えた時、周りを見渡しても何も助けになるものはありません。例えばオペレーティングシステム。非常にわずかな動力で駆動させるためには自社内で開発する必要がありました。そして「太陽光を使うのはどうだろうか? ソーラー充電式にしたら」というアイデアが出てきましたが、文字盤のデザインにフィットする太陽電池は見付かりませんでした。そこで私たちは「よし、自分たちで作ってみよう」と言ったのです。OSと太陽電池の開発に投資しました。最終的には素晴らしい時計が出来上がったので、とても満足しています。テクノロジーの世界は何が起こってもおかしくありませんから、例えば6年後にBluetoothの技術がなくなったとしても、お手元にソーラー充電式の、スマートフォン非連動状態でも機能するT-タッチが残るのです。私たちは時計メーカーなのでチタニウムやセラミックスといった新しい素材の扱いには長けています。より勉強になったのは、ソフトウェアの方でした。私にとって本当に大切なのは、お客様との約束です。ティソを購入される方は、それを電化製品の世界のようにたった1、2年のためにお求めになるのではありません。携帯電話をすると3年後には買い替えとなり、下手をすると2年後には既に時代遅れになるものです。ティソ T-タッチ コネクト ソーラーをお買い上げになるお客様には、10年先も身に着けていただきたいのです。私たちの日々の仕事の中心には、長くお使いいただきたいという気持ちがあります。お客様は5年後、6年後にメンテナンスなどで戻っていらっしゃいます。ティソの時計をお買い上げいただいた時、長くお使いいただけるというお約束をお客様に提供しています。

2021年、ティソはPRXの機械式モデル「PRX オートマティック」を発表した。自動巻き(Cal.Powermatic 80)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ最長80時間。SSケース(直径40mm、厚さ10.93mm)。10気圧防水。8万5800円(税込み)。

WatchTime:ティソはアフターセールス部門の納期が比較的短いことで知られています。それはなぜですか?シルヴァン・ドラ:アフターセールスのサービスはブランドにとって強みのひとつだからです。私たちは顧客に高額なスイス時計を購入するのと同じ体験をしていただきたいと思っています。私自身、かつて初めて自分のティソウォッチをサービスに出した時には驚きました。時計を綺麗に保つための小さなキットを贈られたりと、私たちが製品にもたらそうとしている品質に沿ったサービスを提供するための小さな要素がすべて揃っていたのです。

WatchTime:スペアパーツについてはいかがですか?シルヴァン・ドラ:スペアパーツの在庫を一度お目にかけたいですね。本当にすごいですから。ティソは10年間の保証を行っています。10年以上経ってサービスを提供できない状況になった場合には、新しい時計の購入に対しご優待するなど常に顧客に寄り添った解決法をご提案しています。

WatchTime:あなたの最初の腕時計は何でしたか?シルヴァン・ドラ:スウォッチ グループで仕事をしているからではありませんが、私の最初の時計はスウォッチでした。私の父は、現在もスウォッチの時計を身に着けているくらいのスウォッチの大ファンで、1984年に買ってもらった記憶があります。

WatchTime:今日はどんな時計を着けていらっしゃいますか?シルヴァン・ドラ:左手首にPRX オートマティック、右手首にT-タッチ コネクト ソーラーを着けています。PRX オートマティックは、単純に大好きだからです。T-タッチ コネクト ソーラーは約1年着用しています。歩数を計ったり、スリーピングモードにあっても電話の着信を知らせてくれたりと、私には必要性の高いモデルです。

WatchTime:PRX オートマティックについてもう少し詳しく教えてください。シルヴァン・ドラ:担当チームは素晴らしい仕事をしてくれました。まさに私がティソにあってほしいと思う時計です。着け心地の良さ、仕上げにおいて、数千フランのスイス時計をつけているのと同じ感覚を与えてくれます。それはまさに彼らが成し遂げたことなのです。