近年の腕時計におけるベゼルは、本来の役割に加え、デザイン面や機能面で欠かせないパーツとなっている。ベゼルを極めることが、ひいては時計を極めることになるといっても過言ではないだろう。特徴や用途などを解説し、ベゼルの魅力に迫る。
ベゼルとは
ベゼルは、文字盤やムーブメントを守る「風防ガラス」の周囲に取り付けられる、リング型の部品のこと。
その役割は風防ガラスをしっかりと固定するためのものだが、腕時計の多機能化とともに、ベゼルもさまざまな役割を担うようになっている。
船窓をイメージした8つのビスを備えたベゼルが特徴となっているウブロ「クラシック フージョン」シリーズ。クラシック・フュージョン チタニウム ディープブルー。価格77万円。文字盤の外枠に配置されるベゼルのデザインは、腕時計の印象を左右するもの。
特徴的な形状を備えたり、ダイヤモンドで装飾するなど、時計の立ち位置を決定付ける部分ともいえるだろう。
デザイン面だけでなく、機能面で大きな役割を担うベゼルも増えてきている。目盛りや時刻表示機能を備えたものに加え、潜水時間の記録機能が付いたものなどが存在するのだ。
ベゼルの素材について
ケースやベルトなどと同様に、ベゼルにもさまざまな素材が使用されている。近年の時計業界では、強固かつ高級感のあるセラミックスベゼルが増えてきた。
ベゼルのみならず、ケースにもセラミックを採用したのがシャネル「J12」シリーズ。独特の質感で、新たな時計の表現方法を提示した。写真のモデルは価格63万2500円。セラミックス素材における最大の特徴は、耐傷性の高さだといえるだろう。かつてベゼルによく使用されていたステンレス素材と比べ、10倍以上の強度があるとされている。
ベゼルは時計本体を守る役割もあることから、ぶつけることも多いが、セラミックス製なら傷つくこともない。
また、耐蝕性に優れていて変色しにくく、金属類に比べて軽量であり、非金属であることから金属アレルギーとも無縁だ。
このように、ベゼルに限らず、セラミックスは腕時計の素材として多くの魅力を備えている。
ただひとつ、割れやすいことが弱点として挙げられるため、強い衝撃には注意する必要がある。
装飾としてのベゼルの種類
ベゼルが腕時計の第一印象を決定付ける側面を備えていることは、既に説明したとおりだ。ベゼルにおける代表的なデザインの中から、主な種類をチェックしておこう。
ダイヤルの魅力を際立たせるスムースベゼル。シンプルがゆえにベゼル角度や細さ、磨きの種類とレベルなどで大きく印象が変わる。パテック フィリップ「カラトラバ・ウィークリー・カレンダー Ref.5212A」。手描き風のフォントを採用し、魅力的に仕上がった1本。価格365万円。「スムースベゼル」は、数あるベゼルの種類において多くの時計ブランドで採用されている、最もスタンダードなデザインだ。
アクセントとなるような装飾がほとんどないことから、文字盤の視認性を確保。また、文字盤の装飾やデザインを生かす。ドレスウオッチにも多用されエレガントな仕上げにも最適だ。
シンプルゆえに仕上げは時計の良し悪しを左右する。たとえば、スムースベゼルの鏡のような仕上がりは、手掛けた職人の技術に左右されるため、ブランド力を知る重要な要素ともいわれている。
山のようなギザギザ形状が特徴のフルーテッドベゼル。ロレックスではデイデイト、デイトジャスト、スカイトゥエラーに採用される。「フルーテッドベゼル」は、山のようなギザギザ型が規則的に連続して施されたベゼルだ。名称の『フルーテッド』は、縦じまを意味する言葉である。
素材として主に使用されるゴールドの素材と調和し、独創的な印象を与えることが特徴といえるだろう。
光沢感が際立つため、華やかなシーンで時計を目立たせたい場合などにフルーテッドベゼルのアイテムを選択すれば、さらなる高級感とプレステージ感を出せる。
フォーマルなシーンと相性の良いドレスタイプの時計に多く使用され、近年はゴールドだけでなく、シルバーカラーのベゼルにも使われ始めている。
「エンジンターンドベゼル」は、航空機のエンジンが『ターンド(=回転)』する様子を基にデザインされたことからその名が付いたとされるベゼルだ。
一見すると、フルーテッドベゼルによく似ている。だが、ベゼルの表面をほとんど全てカットし、連続した山型で成り立っているフルーテッドベゼルとは異なり、彫る部分と彫らない部分の連続でデザインが成り立っていることが、特徴である。
表面が滑らかなベゼルに一定の間隔で彫り込みを入れ、彫らない部分が遠目からは棒状に見えるような加工が施されているのだ。
また、フルーテッドベゼルでよく使われるゴールド素材ではなく、ステンレス素材を使用することが多い点も、エンジンターンドベゼルの特徴といえるだろう。
ダイヤモンドに対して1万分の1程度しか採掘できないとされるパライバトルマリンを使った宝飾モデル、ウブロ「ビッグ・バン ウニコ ホワイトゴールド パライバ」。予価2897万円(受注生産)。「宝飾ベゼル」は、その名のとおり、ベゼルにダイヤモンドなどの宝石をセットしたベゼルだ。
宝飾のデザインはアイテムによりさまざまで、等間隔に宝飾を埋め込んだものや、ベゼル全体に宝飾を敷き詰めたものなどが作られている。
宝飾ベゼルが放つ輝きは、エレガントな雰囲気が漂うシーンにピッタリだ。腕時計というより、まさに宝飾品そのものとして扱われるべき一本といえるだろう。
「コインエッジベゼル」は、コインの縁に見られるような、ギザギザ状の装飾が施されたベゼルだ。
フルーテッドベゼルと似たようなデザインだが、フルーテッドベゼルが連続した山型で成り立っているのに対し、コインエッジベゼルでは細いラインが彫られ、丸みを帯びたようなギザギザである点が異なっている。
またコインエッジベゼルは、デザイン面だけでなく、時計における機能的な役割を担う側面がある。
光の反射を抑え、視認性を高める効果が期待できることから、パイロットウォッチやダイバーズウォッチなど、高い実用性を求められる時計に多く採用されているのだ。