■連載/石野純也のガチレビュー
SIMフリースマートフォン市場でファーウェイが躍進する原動力になった端末が、liteシリーズだ。同社は、PシリーズやMateシリーズ、novaシリーズといった各サブブランドの下に、それぞれliteと銘打った廉価版モデルを用意。上位モデルで培ったイメージを生かしつつ、その一部を手頃な価格で提供するというのが同社の戦略だ。実際、2019年に発売されたP30 liteは、今でも販売ランキングの上位に顔を出すほど、継続して売れ続けている。
このliteシリーズに、新たな端末が加わった。2020年6月に発売された「P40 lite 5G」がそれだ。Pシリーズのlite版は、特にコストパフォーマンスに優れていることが多く、歴代の端末がヒットを飛ばしている。2020年は、このP40 liteを2モデルに分けて展開。5Gに対応し、カメラ性能を大幅に強化したP40 lite 5Gと、4Gモデルで価格をより手頃にした「P40 lite E」の2機種を発売した。
ミドルレンジモデルながら5Gに対応したP40 lite 5G
一方で、従来のPシリーズのlite版とは、大きな違いもある。GMS(Google Mobile Service)が搭載されていないことだ。米国からの禁輸措置が取られたファーウェイは、グーグルとの取引ができなくなり、GMSを内蔵したAndroidを採用できなくなってしまった。代わりに同社は、自社でエコスシステムを推進。HMS(Huawei Mobile Services)を立ち上げ、アプリストアやAPIを用意している。ベースは同じAndroidのため、操作性などがそのままだが、使えるアプリやサービスは大きく異なる。
では、HMSを採用した国内初のP liteシリーズであるP40 lite 5Gは、実際どの程度の実力なのか。端末を自腹で購入し、約1か月間ほど5G対応のSIMカードを挿して使ってみた。ここでは、そのリアルな使用感をお届けてしていきたい。
lite版とは思えない高級感で、パフォーマンスも良好
フラッグシップモデルの廉価版に位置づけられるP40 lite 5Gだが、そのたたずまいには高級感があり、3万9800円という価格がにわかには信じられないほどだ。背面の光沢感が少々やりすぎに見える部分もあるが、フレームの金属まで同系色でまとめられており、一体感がある。
背面はギラっと輝く処理が施されており、目立つデザインだ
指紋センサーが電源キーと一体になっている点も、評価できる。ミドルレンジモデルは背面に指紋センサーを搭載する端末も多いが、どうしてもデザイン性を損なってしまう。サイドに搭載する場合、やはり電源キーに指紋センサーを統合するのが合理的。画面を点灯させるため、電源キーに指を伸ばすと、自然に指紋が読み取られ、ロックが解除される。
電源キーと指紋センサーは一体化している
ディスプレイの表示品質も高く、液晶ながらベゼルの幅も狭い。インカメラは、画面左上の穴の中に格納されている。動画などの映像を画面いっぱいに表示させると、穴が開いたように見えてしまうのは残念だが、大きめのノッチよりは邪魔にならない。有機ELではないため、黒の締まりなどは弱いが、解像感は良好だ。
ディスプレイの穴からインカメラがのぞく、パンチホール型を採用
これまでのP liteシリーズは、チップセットに600番台や700番台のKirinを採用していた。P30 liteはKirin 710、P20 liteはKirin 659といった具合だが、ミドルレンジ向けのチップセットゆえに、どうしてもパフォーマンスはハイエンドモデルにかなわなかった。対するP40 lite 5Gが搭載するのが、Kirin 820だ。
同時期に発売されたP40 Pro 5GはKirin 990で、これに比べればパフォーマンスは落ちるが、800番台の型番を冠するだけに、Kirin 820の性能はミドルレンジ以上の性能を誇る。アプリの立ち上がりも速く、操作感は非常にスムーズ。ベンチマークアプリのAntutubenchmarkで計測したスコアも約35万点で、その実力を裏付けている。35万点は、2年前のハイエンドモデルを上回るスコア。1年前のハイエンドモデルよりは劣るものの、普段使いには十分以上のパフォーマンスだと評価できる。
ベンチマークスコアは35万点前後
ハイエンドモデルに迫るカメラ性能で、夜景も美しく撮れる
背面には、クアッドカメラを搭載する。メインカメラは6400万画素、1/1.7インチで、画素数とともにセンサーサイズも大きい。800万画素の超広角カメラも搭載する。一方で、残りの2つは、あくまで補助用。片方が200万画素のマクロカメラ、もう1つが被写界深度取得用の200万画素カメラになる。4つのカメラは1つのユニットのようにまとめられており、デザイン上のアクセントにもなっている。
背面には4つのカメラを搭載する
中でも高性能なのが、6400万画素のメインカメラ。1/1.7インチのセンサーは、ミドルレンジモデルとしては異例の大きさで、ハイエンドモデルと肩を並べる。2020年に入り、より大型のセンサーを搭載するモデルが徐々に増えてはいるものの、1/1.7インチは依然としてスマホのカメラの中では大型といって差し支えないだろう。ただし、同社のハイエンドモデルとは異なり、Leicaのブランド名を冠していない。絵作りに関しては、あくまでファーウェイ自身が行っているのだ。
実際の写りは、さすがファーウェイといったところ。カメラを向け、シャッターを切るだけで、非常に精細な写真を撮ることができる。明かりを抑えられた室内でも、センサーが大型のためノイズが少なく、ブレも起こりづらい。ただし、AIをオンにしていると、やや発色が派手に出る傾向はある。“映え”を重視したファーウェイ端末らしい色合いではあるのの、ややクドイ印象も受ける。より自然に撮りたいときは、AIをオフにしてもいいだろう。
建物のディテールがはっきり描写されており、空もスカッと青く写っている
やや光量の少ない屋内での食べ物を撮影しても、ノイズの出が少ない。色味はやや派手目に仕上がる
人物もブレがなく、肌の質感もキレイ
夜景モードにも驚かされる。夜景モードは、複数枚の写真を連写、合成することで、暗所をより明るく撮影するための機能。ブレなく、きちんと合成できるのはAIの力によるところが大きい。実際、以下に掲載した写真は6秒程度、手持ちで固定して撮った写真だが、特に手ブレなどは発生していない。HDRが強く効いているため、通常なら白飛びしてしまうようなバックライトのついた看板も、しっかり映し出されている。
夜景モードで撮った写真。空のグラデーションがキレイに出ているのと同時に、路線図までしっかり写っている
4万円を切るミドルレンジのスマホで、ここまでの撮影ができるのはいい意味で驚かされた。上位モデルのP40 Proでは、より多彩な撮影ができるが、これで十分という人も多いはずだ。他社のハイエンドモデルとも十分戦えるクオリティになっており、満足度は非常に高い。一方で、広角カメラは画素数は800万画素と少々低く、周辺部分の描写には粗さも目立つ。望遠カメラにも非対応なため、寄りの写真を撮ろうとするとデジタルズーム頼みになる。こうした点は、ミドルレンジならではといえるかもしれない。
広角カメラではダイナミックな写真が撮れる一方、周辺の描写にはやや粗さがある
HMSには“工夫”と“諦め”が必要、アプリ拡充が今後の課題
パフォーマンスが高く、カメラ性能もミドルレンジモデルではトップクラスのP40 lite 5Gだが、それだけでほかの端末と同列の比較はできない。このモデルには、グーグルのGMSが搭載されていないからだ。GmailやGoogleマップ、Chromeといったグーグル自身が提供するアプリが利用できないだけでなく、サードパーティのアプリもファーウェイが用意したAppGalleryから配信される。
GMS非対応のため、Playストアがなく、アプリはAppGalleryからダウンロードする
とはいえ、AppGalleryでのHMS対応アプリの配信はまだスタートしたばかり。日本でもアプリ開発者の開拓に注力しているものの、GMS搭載Androidと比べると、その数は圧倒的に少ない。LINEやNAVITIMEなど、超メジャーな一部のアプリはすでにAppGalleryでの配信が始まっているが、GMS搭載のAndroidのように細かなニーズを満たしてくれるレベルにはなっていない印象だ。
LINEなどの超メジャーアプリは配信されている
例えば、注目を集める決済分野では、LINE経由で呼び出すことができるLINE Payしか利用できない。PayPayやd払い、au PAY、メルペイなどは配信されておらず、決済手段は限定されてしまう。銀行や航空会社、百貨店、レストランなどなど、ローカルな環境に特化したアプリは全体的に手薄だ。ゲームに関しても、グローバルで配信されているものは見かける一方で、日本のメーカーのアプリは少ない。
○○Payのような決済アプリは、ほぼ存在しない
ベースは同じAndroidのため、ファーウェイの提供するPhone Cloneなどでアプリのパッケージを直接移植すれば、動作する可能性はあるが、グーグルの提供するAPIに依存しているアプリも多い。実際、筆者も機種変更前の端末を使い、片っ端からアプリを移してみたが、きちんと動作するアプリはあまり多くなかった。多機能になればなるほど、グーグルのAPIを使用している確率も高くなり、一筋縄ではいかない。一般的なAndroidと同じように使うのは、難しいと考えておいた方がいいだろう。
グーグルのAPIに依存しているアプリは、仮に移植できても動作しない
ただし、工夫で乗り切れる部分もある。例えばグーグルのアプリは、ブラウザで代替するという手が考えられる。GoogleマップもGoogleカレンダーも、すべてブラウザ経由でのアクセスが可能。メールは、標準のメールアプリにグーグルのアカウントを設定しておくことができる。アプリに比べると、使い勝手はどうしても悪くなるが、まったく使えなくなるよりはいい。工夫や割り切りは必要だが、それなりに使える端末にはなるはずだ。
ブラウザを駆使して、足りないアプリを補うことは可能だ
HMSという大きな課題はある一方で、5G対応でこのクラスのカメラが搭載された端末が、4万円を下回っているのは破格といえる。これまでのスマホで培われてきたエコシステムに依存していないユーザーが買うのであれば、ある程度、満足はできそうだ。通話やメッセージ、ブラウジングなどが中心のフィーチャーフォンユーザーや、プライベート用のサブ端末などとしては、いい選択肢かもしれない。HMS体験用としても、オススメできる。黎明期のスマホを工夫しながら使ってきたユーザーなら、懐かしさも感じられるはずだ。
【石野's ジャッジメント】質感★★★★持ちやすさ ★★★★ディスプレイ性能★★★★UI ★★★★撮影性能★★★★★音楽性能★★★★連携&ネットワーク ★★★生体認証★★★★決済機能★★★バッテリーもち ★★★★*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。