「(バイトダンスとの取引を禁じる)大統領令は、世界の企業にとってアメリカへの信頼を破壊するもので、表現の自由とオープンな市場に反する危険な先例となる。アメリカ政府がわれわれを公正に扱わないなら、アメリカで訴訟を起こす」
トランプ大統領がショート動画アプリTikTok(ティックトック)を運営するバイトダンス(字節跳動)とメッセージアプリWeChat(微信)を運営するテンセント(騰訊)の中国企業2社との取引を禁止する大統領令に署名した翌8月7日、バイトダンスは訴訟を示唆する声明を発表した。
TikTokは「禁止」か「事業売却」の二択を迫られ、大統領令の署名前からマイクロソフトと事業買収協議に入っていたが、中国内では「弱腰」との批判が殺到している。
同社が非難されるのは、「排除」の先輩である通信機器メーカー、ファーウェイ(華為技術)がアメリカ政府との対決姿勢を強めているのも一因だ。新型コロナウイルスの拡大や一国二制度を形骸化する香港国家安全維持法の施行により世界で対中感情が悪化する中、ファーウェイは「政治問題に巻き込まれた」と主張する戦略にシフトしている。バイトダンスも中国世論を意識し、アメリカ政府を批判する声明を出したのだが、その後は沈黙を続けている。
ボルトン氏の著書を証拠に提出
TikTokが事業を人質に取られているのに対し、ファーウェイは孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダで拘束されている。孟氏はアメリカ政府の要請を受け、イラン制裁問題に絡む詐欺容疑で2018年12月にカナダで逮捕された。
孟氏側は「逮捕当時、カナダがイランに制裁を発動しておらず、引き渡しの根拠となる行為が両国ともに犯罪と定められていることを表す『双罰性』を満たしていない」と審理で主張したが、裁判所は今年5月、孟氏の訴えを却下した。現在は、拘束手続きの適法性を巡る審理の途中だ。
さらに孟氏の弁護団は7月中旬、「トランプ大統領が孟晩舟氏を米中貿易戦争、2020年の大統領再選のカードに利用している」ことを示す資料を証拠として、トランプ大統領が孟氏拘束後の 2018年12月11日に、「米中間の貿易交渉や国家の安全にメリットがあると思えば、事件に介入する」と発言したことを報じるロイターの記事や、ジョン・ボルトン前アメリカ大統領補佐官(国家安全保障担当)がトランプ大統領や各国要人との詳細なやり取りを暴露した回顧録『それが起きた部屋(The room where it happened)』の記述を裁判所に提出した。