未知の世界です。
世界初(※)、光発電による飽和潜水1,000メートル防水を実現した腕時計「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナルダイバー1000m」が、2017年7月にシチズン時計株式会社から発売になります。(※1,000m飽和潜水用防水の光発電時計として。2017年5月シチズン調べ。)飽和潜水1,000メートル防水ともなると、JIS規定の防水試験をパスするため、深海を想定した「125気圧」という想像を絶する圧力に耐える必要があります。125気圧といえば、1平方センチに125キロの力がかかる計算。トンデモナイ耐久性&防水性が求められることは明白です。
しかも、今回発売される「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナルダイバー1000m」は、1,000メートル防水クラスでは世界初となる“光発電”が搭載され、フル充電で1.5年可動。定期的な電池交換も不要という、まさにプロフェッショナル仕様にふさわしい腕時計なのです。
でも、ここで素朴な疑問がひとつ。飽和潜水1,000メートル防水のすごさは分かりますが、人ってそんなに深くまで潜れましたっけ……?
人類の飽くなき挑戦。知られざる「飽和潜水」の世界
そもそも「飽和潜水」って何?という方に、ここでちょっとだけお勉強です。
人が深海に体をさらしたまま潜水を行なうには、「飽和潜水」という技術が必要になります。水面から海に潜る空気潜水(スキューバダイビングなど)とは違い、飽和潜水士は酸素とヘリウムの混合ガスを高圧環境下で身体に吸収させ、体内を深海の水圧に耐えられる“加圧状態”にしてから海に潜ります。
手順として、まずダイバーは加圧された地上のタンク(4畳ほどの居住空間)に入り、身体を高圧環境に適応させます。そして加圧状態のままタンクと同気圧のカプセルに移動し、カプセルごと深海に下降。深海に到達したらハッチを開け、そこから深海へ出て作業を行ないます。
加圧状態になったダイバーは、深海作業が終わったからといってすぐに外(大気圧の下)に出ることはできません。潜水を終えたダイバーは、カプセル経由で先ほどの高圧環境のタンクに戻り、通常状態にまで身体を“減圧”させなければなりません。そのため、場合によってはタンクの中で数週間以上も生活することがあるとか。閉所恐怖症の人はちょっと無理かも…。
現在、人がどこまでの深さまで潜れるかというと、2008年に海上自衛隊の潜水員が「飽和潜水450メートル」に成功しており、これが世界第2位の記録。つまり、飽和潜水1,000メートルという数字自体、それはもう人類のロマンのような未知なる世界というわけです。(ちなみに1位は、地上でのシミュレーション実験で701メートルだとか)
そんな自衛隊員でも450メートルがやっとの深海に、民間人ながら「飽和潜水300メートル」を経験された方がいました。その方こそ、今回取材に応じてくれた野口雅之さん。
野口さんは、日本で唯一の飽和潜水システムを採用する民間企業「アジア海洋株式会社」で、飽和潜水システムの開発・管理を担当。現在は飽和潜水士としての経験を活かし、陸上からダイバーをサポートする立場でお仕事をされています。
今回はそんな野口さんに、一般人にはあまり馴染みのない「飽和潜水の仕事」のこと、そして野口さんが経験された「深海300メートルの世界」についていろいろな話を伺ってきました。
日本でたった50人ほど。世界の海で活躍する「飽和潜水士」の仕事とは?
──「飽和潜水」とは、どういうお仕事なんですか?特定された仕事というものはなく、水面から潜っていけないような海中に仕事がある場合、「飽和潜水」の出番になります。
例えば、水深100メートルのところに落としたモノを回収する仕事もありますし、船を引き上げたり、深海での救出作業など、もうさまざまです。場所も海だけでなくダムのような場所での作業や、深いところだけでなく水深15メートルくらいのときもあります。
──そういう浅いところの場合、飽和潜水士を使うメリットというのは?一番は品質ですね。水面から潜っていける場所でも、工期が長くなればなるほど、同じ潜水士が長時間作業ができるので、品質的にも飽和潜水を使うメリットは多くなります。意外かもしれませんが、空気潜水(ヘルメット潜水)での作業のほうが、飽和潜水よりも多くの潜水士が必要になります。
──飽和潜水士は、日本にどのくらいいるのでしょうか。詳しい数は分かりませんが、うちの会社で30人ほどいますので、全国で50人ぐらいじゃないでしょうか。
──飽和潜水士になるための学校があるとか?海外にはありますが、国内には学校はありません。全員、社内で一から教育しています。飽和潜水士として仕事をするまでには、研修期間を入れて最低3年ぐらいかかります。民間で飽和潜水をしているのはうちだけですからね。あとは、自衛隊さんくらい。
──飽和潜水士という仕事の魅力とは?誰でもできる仕事じゃありませんから、まずは任務が完了したときの達成感ですよね。あと、本音を言えば、給料とは別にもらえる“特別手当”もモチベーションのひとつです。まあ、そういうメリットがないとなかなか続けられません。それなりに身を危険にさらしているわけですから。
──海外では高収入という面からも、飽和潜水士が人気職種というのを聞いたことがあります。海外では「半年だけ潜って、残り半年はオフ」というフリーダイバーも多いそうです。日本でそういう人は稀かもしれませんね。
──特別ボーナスがあるにしても、かなり過酷そうな仕事ですね。水に浸かる職業なので、ダイバーの中には耳を悪くされる方も多いと聞きます。さらに飽和潜水士は異常気圧内に身を置き続けるわけですから、見た目の変化がなくても、やはり過酷な仕事であることは間違いありません。
体が悲鳴をあげる領域「深海300メートル」の世界とは?
──野口さんは、もともと海洋研究開発機構(JAMSTEC)で飽和潜水の訓練を受けていたとお聞きしました。18歳から26歳くらいまで、JAMSTECで飽和潜水に関する教育や訓練を受けていました。60、100、200メートルの他にも、最高300メートルの深海を体験しています。
──300メートルとなると、身体を加圧するだけでも大変そうですね。当時の記録によれば、加圧に半日以上の時間をかけています。加圧には個人差があると思いますが、私の場合は200メートルを超えたあたりから、関節痛がひどかった記憶があります。加圧すると視野も狭くなるので、ベッドに何度も頭をぶつけていました。
──そういう環境に何日も身を置くわけですが、怖さは感じませんでしたか?まあ、無我夢中でしたから。私の場合は2日ぐらいで慣れましたが、人によって症状も慣れる日数もまちまちです。うちの会社では「飽和潜水200メートル」までなので、そういった症状が出ることはほとんどありません。
──200メートルと300メートルでは、体にかかる負担が全然違う?私の経験から言えば、まったく違いましたね。200を超えたあたりから体が悲鳴をあげるといいますか。呼吸は普通にできますが、ドロドロしたガスを吸っている感覚です。
──深海300メートルってどんな世界なんですか?太陽の光がまったく届かない世界なので、まわりは真っ暗ですし、水温もかなり低い。季節によっては10度を下回るので、スーツに温水を流していないと、寒くて作業ができない状態です。
──初めて深海に降り立ったときの心境は?カプセルを出た瞬間、海底に“タカアシガニ”がいっぱいいまして……。
──カニ、ですか?もうそれがとにかく衝撃的で。タカアシガニは深海にしか生息しないカニですから、普通ではなかなか見られません。だから、タカアシガニがうじゃうじゃいるのを見て、「ああ、俺もついにこんな深海にまで来たのか」って(笑)。
──カニを見て実感したと(笑)。深海魚もたくさんいたと思いますが、もうカニの印象が強すぎて(笑)。まあ、光を当てないと何も見えませんから、海中に出てしまえば200も300もあまり変わりないというのが本音ではありますが。
外界と隔離された閉鎖空間。世にも奇妙な「高圧環境」での生活
──飽和潜水では身体を“加圧状態”にするわけですが、人は何日くらいまで加圧状態で生活できるのですか?医学的なことは分かりませんが、うちの会社のレギュレーションでは、ひとりのダイバーの連続勤務時間は、加圧と減圧期間を入れて最長28日間です。加圧・減圧に4日かかるなら24日間。10日かかるなら18日間作業ができます。加圧・減圧期間は水深によっても変化します。
──作業期間中はもちろん、減圧期間もずっとタンク内で生活を続けるわけですよね。そうです。身体が減圧するまでずっとタンク内で生活します。ベッドで横になったり、お菓子を食べたりしています。テレビはありませんが、小型のゲーム機の持ち込みはOKです。
また、タンク内での筋トレは減圧症になるリスクが高いので禁止です。お酒・たばこも禁止。食事は外から支給されますが、刺身などの生ものは、おなかを壊す可能性があるのでNG。まわりで新鮮な魚が釣れたとしてもダメです。
──スマホやネットは使えないのですか?基本的に使用禁止です。なぜかというと、ダイバーが外の情報を受け取ってしまうのを防ぐためです。もし家族に不幸があっても、身体を減圧しない限り絶対に外へは出られません。ダイバーの精神面を守るという観点からも、外の情報をあえて遮断した状態にしています。
タンク内には電話もありません。連絡できるのは、外部で潜水作業を指揮している人だけ。どんなに外に出たいと思っても、減圧するまでハッチを開けることはできません。これは命にかかわることですから。
──もしタンクのハッチをいきなり開けたら…。おそらく即死だと思います。まあ、私もそういう現場を見たことないのでよく分かりませんが、たぶん、血管が飛び出すというか、破裂というか。
──な、なるほど…。ちなみに、タンク内での生活で困ったことや不便なことってありましたか?見た目の変化は特にありませんが、タンク内の加圧には酸素とヘリウムの混合ガスを使用するので、圧が強くなればなるほど空気中のヘリウムの量が増え、結果、加圧中のダイバーの声はみんな甲高くなっていきます。
──声が高くなるんですね。ヘリウムボイスとも呼ばれていて、水深が深くなればなるほど、声もどんどん甲高くなります。深いところでは、中にいるダイバー同士でも会話が困難になるほどです。
──他に、普段の生活と違うところってありましたか?高圧環境下では「気泡があるもの」「穴が空いていないもの」は変形してしまいます。例えば、カップラーメンは容器が気泡だらけなので、加圧すると容器だけが縮んで中身が外に飛び出してしまいます。
300メートル潜ったときは、中でアイスクリームも食べました。圧力で半分以下のサイズに圧縮されていましたが、その分、味が濃厚になっておいしかった(笑)。
──(笑)アイスは気泡がないほうが滑らかで、きめが細かくなりますからね。深海で食べるアイスはおいしいです(笑)。
「飽和潜水1,000m防水」の時計を持って、深海1,000メートルに挑戦したい?
──飽和潜水士たちは、場合によっては数週間以上もタンク内で生活するわけですが、生活リズムを維持するだけでも大変そうですね。ダイバーのスケジュールに関しては、外の人間が起床時間から就寝時間までをすべて管理しているので、生活リズムが乱れることはありません。ただし、中のダイバーたちは時間や曜日感覚がなくなってくるので、カレンダーに印をつけたりして「今日が何日目」というのを自分たちで把握しています。
──作業にはやはり腕時計が欠かせない?飽和潜水士はすべて外からの指示で行動するので、自分で時計を見て何かを判断することはほとんどありません。でも、タンク内ではやっぱり時間が気になりますよね。
──飽和潜水士の方には、どういう時計が人気なのでしょうか。やっぱり飽和潜水用が人気ですよね。普通のスキューバー用だと内部に「ヘリウムガス」が入ってしまって、減圧中に時計が壊れてしまいます。飽和潜水用だとその心配がありませんから。しかも、この時計って光発電なんですよね?
──そうなんです。世界初、飽和潜水1,000メートル対応で光発電。フル充電で1年半くらいは余裕で動きます。そこがいいですよね。飽和潜水士って、いったん作業を始めたらなかなか外に出られないので。この時計はベゼルロックもできるし、針も太くて見やすい。この頑強なデザインもけっこう好きですね。
──ちなみに、「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナルダイバー1000m」は飽和潜水1,000メートル防水です。もしチャンスがあるなら、その時計を持って1,000メートルの深海に行ってみたいですか?いえ、まったく行きたくありません(笑)。
──あ、そうなんですね。だって1,000メートルの圧力となると、もう身体にどれだけの異変が出るか想像もつきません。人類のロマンよりも先に「ああ、辛そうだなぁ」って。だから、私は絶対に行きたくない(笑)。あ、そういう答えじゃマズかった?
──いえ、それこそ正直なご意見だと思います(笑)。ただ、フォローするわけじゃないけど、飽和潜水1,000メートル防水というのは、時計の技術としてはやっぱりすごいと思います。実際に地上でのシミュレーションでは701メートルまで行けるわけですから。やっぱり人類の夢として、まずは1,000メートルに耐える時計がないと。
人類未開拓の飽和潜水1,000メートル。それでもシチズンが「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナルダイバー1000m」を作る理由
野口さんがインタビューでも指摘していたように、飽和潜水では腕時計の内部にヘリウムガスが侵入し、それが原因で時計が壊れてしまう恐れがあります。
ヘリウム原子はプラスチックを透過するほど小さいため、飽和潜水1,000メートル対応腕時計を実現するには、1,000メートルの水圧に耐える防水性だけでなく、高圧環境下でのヘリウムの侵入を防ぐ「圧倒的な気密性」が必要になります。
「プロマスター エコ・ドライブ プロフェッショナルダイバー1000m」は、その高い気密性を追求するため、熟練の職人がガラスとケースの組み込みをすべて手作業で行います。そのため、1日に生産できる数はわずか35個。細部に至るまで徹底的にこだわって仕上げられています。
しかし、なぜシチズンはそこまでして「飽和潜水1,000メートル」の腕時計をつくる必要があるのでしょうか。
その答えは「シチズン プロマスター」が掲げるキーメッセージ「GO BEYOND(想像のその先へ)」にあります。人類の限界を超えた時計をつくることで、人々の想像力をかき立て、未知の領域への憧れや夢を応援する。それこそが、シチズンが本当に伝えたい思いなのです。
そしてそれを実現するため、シチズンは、世界的なコンペティション「XPRIZE」に挑戦する日本発の2チーム海中探査チーム「Team KUROSHIO」と月面探査チーム「HAKUTO」のサポートをしています。7/15には、GINZA SIXでTeam KUROSHIOメンバーによるトークショーも行なわれます。くわしくはコチラをご覧ください。
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海だけじゃない! 陸、空で尖ったチャレンジをしたい方向けのプロマスターも同時発売
シチズンのプロマスターは「海」だけでなく、「陸」「空」のフィールドに挑戦するプロフェッショナル向けの腕時計も同時発売しています。
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