Engadget Logo エンガジェット日本版 Apple Watchが「健康産業の未来」になるのは何年も先?医療界の受け入れが遅れているため

huaweiwearabless 13/10/2022 581

Apple Watchは心電図アプリや転倒検出など、数々の機能により人々の命を救ってきたことが伝えられてきました。しかしApple Watchが「健康の未来」になるというアップルの構想は、医療界の受け入れが遅れていることや、データを収集することに留まっていてその人に適したケアの提案までは至らないため、実現は何年も先のことになるかもしれないと報じられています。

The Financial Timesの記事は、多くの医師や医療関係者がApple Watchを日々の患者のケアに取り入れることの難しさを詳しく扱っています。それらの中には、Apple Watchがより大きな規模でユーザーの健康を良くする未来はまだ先の話だとの証言もあるしだいです。

近年のApple Watchほかウェアラブル機器は、多くの有用なデータを集めることができ、場合によっては臨床グレード(医療機関での検査レベル)に達しているものの、ほとんどの医師はそれを利用していないとのこと。例えば臨床心理学者のMichael Breus 氏は、99.9%の医療関係者がまだ見向きもしていないと述べています。

また米国のバイオメトリック(生体センサー)企業Valencellの共同創設者Steven LeBoeuf博士は、それらウェアラブル機器の活用が医療業界で受け入れられにくい事情を語っています。「(FDA/米食品医薬品局)が承認した上で、医師が受け入れなければならず、さらにそれに対する報酬を得る必要があります。これは長い道のりです。思ったほど簡単ではありません」とのことです。

もう1つの問題は、Apple Watchが集めた生体データをどう活かすかということ。Virta Health社のCEOであるSami Inkinen氏は、パーソナライズ(各ユーザーへの最適化)されたケアの提案なしにデータを提供するだけでは、健康を改善するのに十分ではないとコメント。

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Inkinen氏は現在のApple Watchのあり方を「体重計を売るようなもの」と例えています。つまり「何%太っているか教えるのはそれほど難しくありません」「しかし、実際に生活習慣を変えさせて、血糖値を下げたり、薬をやめたり、体重を減らすような結果を出すにはどうすればいいのでしょう? それがApple Watchには完全に欠けているのです」というわけです。

さらに調査によれば、多くのApple Watchユーザーはすでに健康で元気だと認識している結果が出ています。そのため本製品のターゲット市場には、Apple Watchが最も恩恵をもたらす人々が含まれていないかもしれません。

それでも一部の医師は、Apple Watchが患者のケアと研究の両方に利用できるとの期待を語っています。CDC(米疾病予防管理センター)によると、慢性疾患は米国の3兆8000億ドル(約437兆円)に上る医療費の「主要な要因」となっており、また慢性疾患は一般的に運動や食事、早期発見などにより予防できるためです。

たとえばハーバード大学の研究者Mahalingaiah氏は、Apple Watch新旧モデルを使って7万人もの女性の排卵周期を追跡する大規模な研究を実施。そしてOchsner Health社のRichard Milani博士は、ウェアラブルデバイスを使って莫大なデータを集め、AIを使ってどんな人が転びやすいかなどの予測に用いているとのことです。Milani氏は「普通の医師はこれだけのことをやっていない」と認めています。

毎年のようにアップルはApple Watchに新たな健康関連機能を追加していますが、それが医療の現場に採用されるまでには長い時間がかかっています。海外で多くの人々に心臓の異変を知らせて悲劇を未然に防いだECG(心電図)も、ハードウェア的には2018年発売のApple Watch Series 4で搭載されながらも、日本で医療機器承認を受けたのは2020年のことでした。

人の身体に直結するだけに政府による許認可にも慎重さは求められるとしても、一方では救えるはずの命や医療費に貢献する可能性もあり、より迅速な対応が望まれそうです。

Source:Finantial Times

via:AppleInsider