最も革新的で歴史的な腕時計の発明のひとつと言われる、ロレックスのオイスターケース。陽のあたる道を歩み続ける成功裏には確かな理由がある。本稿では時計史に残るオイスターケースのさまざまな側面を見つめ直し、その実力を再検証する。
Originally published on watchtime.comText by Mark Bernardo2021年12月7日掲載記事1926年以来ロレックスの名声の礎となってきた「オイスター」
深海遠征用のツールとしてロレックスが開発したシードゥエラー。1967年に誕生し、長年にわたりロレックスのダイバーズウォッチにおける牽引役を担ってきた。ロレックスがなぜ今日の不動の地位を築けたのかを理解するには、長年の歴史と熟練したクラフツマンシップを念頭に置く必要がある。ロレックスが時計業界にもたらしてきた数多くの革新と創造の中でも、特に注目すべきものがオイスターケースである。
1926年に開発されたロレックス・オイスター(当時ブランドによってつけられた呼称)は、実用的な防水・防塵時計ケースであり、さまざまな意味で時計産業に革命をもたらした。これにより腕時計は女性が身に着ける繊細な時計から、男性も着用できる頑丈なアクセサリーへと変貌したのである。堅牢性と防水性の象徴となったオイスターケースの特徴は、時をかけて実証され、ロレックスの工房から出荷される時計の文字盤には「OYSTER」の文字が記されることとなった。
1926年の初代ロレックス・オイスター、Ref.679。ロレックス・オイスターは、密閉ケース、巻上げリュウズ、サイクロプスレンズ、固定または回転式のフルーテッドベゼルが組み合わされ、シードゥエラーとロレックス ディープシーにはヘリウムエスケープバルブが、そして今日ではクロマライトディスプレイが備えられている。オイスターケースのさまざまな側面を知ることで、なぜオイスターケースが時計産業において最も重要な発明のひとつと位置付けられるかをより深く理解できるはずだ。
ロレックスのオイスターケースは密閉構造になっており、サブマリーナーやサブマリーナー デイトでは100m(330フィート)から300m(1000フィート)、シードゥエラーでは1220m(400フィート)、ロレックス ディープシーでは3900m(1万2800フィート)の防水性を確保している。またオイスターケースはオイスタースティールや18Kゴールド、プラチナ950のブロックから型抜き・機械加工されたミドルケースを備える。これがケースの重要な骨格となることでケースの構造全体が支えられ、堅牢性が非常に高まるのだ。プロフェッショナルモデルに多く採用されているリュウズガードはミドルブロックの側面に設けられ、ケース構造と一体化している。サファイアクリスタルはケースの縁に沿ったガスケットに取り付けられ、オイスターケースの防水・防塵機能をさらに高めている。ケースバックには専用工具で取り付けられたねじ込み式ケースバックが備わっている。ロレックスの技術者のみが内部にアクセスでき、外部からの不正操作に対する安全性をさらに高めている。
1953年に発表されたツインロック、1970年に発表されたトリプロックのリュウズは、オイスターケースの高い防水性を確保するために開発された特許機能である。ロレックスの時計が効率的な防水ケース構造を持つという評価を得たのは、このオイスターケースの開発があったからである。
前者が2重の密閉システム(チューブ内1カ所、リュウズ内1カ所)で構成されているのに加えて、後者はさらにチューブ内にもうひとつの密閉部分を追加している(チューブ内2カ所、リュウズ内1カ所)。これはロレックスのエンブレムとともにリュウズトップに印され、ツインロックの場合はドットひとつ、もしくはドットふたつ、あるいはラインがあしらわれる。トリプロックの場合はドット3つで識別される。サブマリーナー、サブマリーナー デイト、シードゥエラー、ロレックス ディープシーなどのダイバーズウォッチに採用されているこれらは約10個の部品で構成されており、潜水艦のハッチの密閉性に似た最高の防水性を実現している。ツインロックおよびトリプロックの素材にはオイスタースティール、18Kゴールド、プラチナ950がある。
3つのドットをあしらったトリプロック式リュウズ。オイスターケースの特徴で際立っているものに、サファイアクリスタル製風防上にある「サイクロプス」レンズの存在がある。その名の由来はギリシャ神話に登場する片目の巨人で、サイクロプスレンズは1950年代初めに登場している。主な機能はデイト表示を拡大することだ。これが風防に追加されることにより、デイトの視認性は飛躍的に向上している。その独自性と革新性が獲得した成功を鑑み、ロレックスは当時の新聞を通じてすぐに、同様の特徴を盛り込もうとした他ブランドに対して警告を発した。「全ての時計メーカーに告ぐ:特殊な形状の拡大レンズを備えた時計の風防は、スイス及びその他の国においてもロレックスの独占製品である。偽造品に対しては、躊躇なく法的手続きを取る」。
長年にわたり、サイクロプスレンズはロレックスの多くのモデルの美的特徴となってきた。また、レンズとクリスタルが一体化したプレキシグラス製から、現在は両面無反射加工を施したサファイアクリスタル製へと変化してきた。防水性と防塵性に優れたオイスターケースは、主にダイバーズウォッチに採用されている。そのため、水中のような暗い場所でも視認性を保つような機能が必要だった。この要求に応えるため、2008年よりロレックスはクロマライトと呼ばれる革新的な蓄光素材を使うようになった。青く光るこの素材は、暗がりでの視認性を高め、さらに視認時間を延ばすことができる。オイスターコレクションのほとんどの時計の針、アワーマーカー、その他の表示部分に採用されたこの高性能な蓄光素材は、暗所でも着用者が時間を容易に確認できることを可能にした。クロマライト ディスプレイの発光時間は、一般的な蓄光塗料の約2倍で、8時間以上にも及ぶ。
ヨットマスターの文字盤は、白と黒の強いコントラストとブルーのクロマライト発光により、昼夜を問わず読み取りやすい。シードゥエラーとロレックス ディープシーによく見られるヘリウムエスケープバルブは、時計のケース内にかかった圧力を減圧段階で逃がす役割を持つ。これは時計の防水性を犠牲にすることなく、与圧された空間で行われる。この革新的な機能は1967年にロレックスが開発し特許を取得したもので、誕生後間もなくディープダイビングの世界で重要な役割を果たすようになった。ヘリウムエスケープバルブの存在により、ダイバーはより深いダイビングを行い、水中でより長い時間を過ごすことができるようになった。飽和潜水のように、ダイバーに同行する時計には、時計が吸収したヘリウムを放出する機能が搭載されていた。
それではどのように機能するのであろうか? ケースの側面に設けられたヘリウムエスケープバルブは、バネで囲まれたピストンを内蔵した密閉シリンダーで構成されている。時計の内部と外部の圧力差が2.5気圧以下の場合、ピストンは閉じたままである。その数値を超えると、ピストンが自動的に動き出し、内部にたまった過度の圧力を逃がすのだ。
ヘリウムエスケープバルブにより、ダイバーの減圧段階で時計の風防が破損することが回避できる。ロレックスがオイスターケースの開発段階にあったころ、ケースの堅牢性以外にも、ベゼルは最も目を引きやすく、衝撃や傷、腐食などの外的要因に最もさらされやすい部品のひとつであると認識していた。このような理由から、ロレックスはオイスターコレクションの一部のプロフェッショナルモデルのために、セラクロムベゼルインサートとセラクロムベゼルを開発した。これは耐食性に優れるセラミックスから作られており、非常に硬いことから耐傷性に優れ、紫外線による褪色を防ぐ。また研磨性にも優れており、長期間にわたり美しい光沢を保つ。
セラクロムベゼルインサートは、2005年に発表された GMT マスターⅡに採用され、今日ではヨットマスターとヨットマスターⅡ、ダイバーズウォッチのサブマリーナー、サブマリーナー デイト、シードゥエラー、ロレックス ディープシーにも採用されている。時計により、ブラック、ブルーまたはグリーンのセラミックベゼルインサートが搭載されている。
原材料のセラミックスは直径が1ミクロン(1mmの1000分の1)以下の微粒子からなる非常に細かい二酸化ジルコニウム、または酸化アルミニウムの粉末である。ロレックスはセラクロムベゼルの用途を拡大し、2013年にモノブロック セラクロムベゼルをコスモグラフ デイトナに初めて搭載した。セラクロムベゼルやセラクロムベゼルインサートと同様に、モノブロック セラクロムベゼルも非常に高い耐性を持つ。今日ではチェスナットブラウンまたはブラックのセラミックでも作られている。ロレックスはカラーバリエーション拡充にも取り組んできた。2013年には初の2色一体型セラクロムベゼルインサートでブルーとブラックをGMT マスターⅡに搭載し、2014年には18Kホワイトゴールドモデルにレッドとブルーを搭載した。2018年はブラウンとブラックの 2色が発表された。
2色のセラクロムベゼルインサートは、インサートの半分のセラミックの色を変化させることでもたらされる。これはさまざまな化合物水溶液をインサートの半分に浸透させることで実現した。全てのロレックスのモデルは、厳しい防水試験を受ける。それぞれのケースを水中に浸し、保証される水深よりも10%高い圧力をかける。ダイバーズウォッチの場合は、35%高い圧力がかけられることとなる。