Apple Musicはなぜ「空間オーディオ」「ロスレス」に対応したのか

huaweiwearabless 14/07/2022 748

手軽で体験が大きく変わる「空間オーディオ」

どういう発想でサービスが作られているのか?

それを知るには、アップルの「空間オーディオ」についての考え方を考察するのが近道だ。

アップルはサービス拡充に合わせ、空間オーディオについて以下のような動画を公開した。ナレーションをしているのは、BBCの「BBC Radio 1」を2015年まで担当、その後アップルに移って「Apple Music 1」を担当しているDJのゼイン・ロウだ。

空間オーディオをApple Musicで

このビデオの中でゼイン・ロウ(すなわちアップル)は、「音楽は決定的に変わる。ステレオに別れを告げ、新しい次元へ突入する」と語っている。

その「新しい次元」こそが空間オーディオだ。

空間オーディオは「3Dオーディオ」などとも呼ばれる技術。空間上に音源を配置し、中心にいる自分にどう聞こえるかを演算で生成し、それを体験するものだ。映画やゲームなどで先に広がったものだが、ライブ楽曲などを含め、音楽にも広がり始めている。ソニーが「360 Reality Audio」としてビジネス化し、Amazon MusicやDeezerなどをパートナーとして、日本でも先日から楽曲提供が始まったことは、本連載でも記事にしている。

4月16日に日本サービス開始、「360 Reality Audio」の本質とはなにか

Apple Musicはなぜ「空間オーディオ」「ロスレス」に対応したのか

アップルは、空間オーディオをApple Musicの新しい基本機能に位置付け、6月からサービスを開始する。

空間オーディオは、対応機器で対応コンテンツを聴く場合、その変化が「誰にでもわかりやすい」という性質を持っている。微細な音質よりも変化がはっきりとしているからだ。そのため、空間オーディオは「体験が変わる」と表現されることが多い。

例えば、クラシックを著名なコンサートホールで演奏したものを収録した場合、その残響音を含めた「現地にいる感覚」をある程度再現することができる。また、マスタリング時に音の配置や移動を工夫することで、よりアトラクション的で「今までに聴いたことのない曲」を作ることだってできる。

Apple Musicで空間オーディオを体験する方法は、意外とハードルが低い。iPhoneやiPad、Macの場合には内蔵スピーカーでも体験できるし、アップルおよびBeatsのヘッドフォンのうち、プロセッサーとして「H1」もしくは「W1」を使っているもの(AirPodsやAirPods Pro、AirPods Maxなどが該当する)でもいい。HomePodでも聴ける。

AirPods Max

こうした機器の組み合わせの場合、再生するデバイスがなんなのかをソフト側が把握できるため、その特性に合わせて自動的に「空間オーディオ」へと切り替えるようになっているという。ちなみに、アップル指定以外のヘッドフォンなどを使う場合には、設定で「常に空間オーディオを再生する」という設定に切り替えれば良い。

使用されるフォーマットは「Dolby Atmos」。再生時には、以下の画像のようにプレーヤーに「Dolby Atmos」の表示が現れる。

Dolby Atmosの空間オーディオを再生中には「Dolby Atmos」の表示が

ビットレートは最大768kbps。回線事情が良い場所で使うのが基本ではある。一方、回線事情が悪い場所や移動中では、フォーマットを「AAC・256kbps」に変える。これでは立体感がないステレオになりそうだが、前もって「バイノーラル記録」しておくことで、低ビットレートでもある程度の空間再現ができるようになっているという。

では、アップルはDolby Atmosしか採用しないのだろうか?

どうやらそうではないらしい。

狙いは「すべての空間オーディオ楽曲を集めること」。実はソニーの360 Reality Audio(フォーマットとしてはMPEG-H 3Dオーディオ)にも興味を持っており、話し合いがもたれているようだ。

その上でDolby Atmosを最初にサポートしたのは、「楽曲の制作環境が整っている」ことが理由であるという。映画などでも広く利用されており、Dolby自身が積極的に対応スタジオの開設をしていること、ツールの整備も進んでいることなどがポイントだ。だが、前述の目標を見ると、他のフォーマットにも強い興味を持っているようだ。

スタート段階では、Dolby Atmosは「数千曲」と見られており、日本の楽曲は含まれない可能性も高い。だが、空間オーディオのマスタリング環境は急速に整いつつあるので、日本の楽曲が出てくるのも遠い日ではなかろう。